書評:『世界のエリートはなぜ、この基本を大事にするのか?』(戸塚 隆将)

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世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか? 世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?
戸塚隆将 208

朝日新聞出版 2013-08-07
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表紙で「この基本」のところが白抜きで強調してあるとおり、本書は

  • 「世界のエリート」が大事にする基本はこれである
  • この基本を大事にする理由はこれである

という構成で、各「基本」をエピソードを交えながら提示する。

本書は全6章から構成されており、それぞれで下記のような内容とその重要性が説かれている。

  1. 社交的に振る舞い、外に開かれた状態を保つこと
  2. 精神的・身体的な余裕を保ち、トレーニングを行うこと
  3. 時間に追われるのではなく、時間をコントロールすること
  4. ビジネス上のやりとりではこれを行うこと
  5. 資料、会議といった他社とのやりとりにでは目的を明確にし、そのための手段であると心得ること
  6. 中長期的なキャリアアップについて

下に引用した目次を見れば、どのようなことが述べられているか、おおよそ見当はつくだろう。見当はつくが、多くの人がなかなか実行できていない、というレベルの内容で、これらを(再)確認し、改めて実行してみることで、それなりの成果は出るだろう。

特に3、4章は今日明日から即実行できるような項目が多く、効果に半信半疑でも、やってみればわかる。朝ぎりぎりの出勤が日常になっている人は、多少の眠気を押してでも朝1時間早く出勤してみて欲しい。こんなに風景が変わるのかと驚くことだろう。
10分前到着もそうだが、間に合っていたとしても、時間ギリギリで動くことは思っているよりはるかに我々の思考力を奪い取っている。余裕を持てるようになると、冷静な思考を取り戻し、先の見通しを立て、緊急ではないが重要な案件に時間を割り振ることができる。そうするとそれにより余裕がまた生まれ……と好循環に入っていける。

全体の中で見ると、第6章はやや毛色が異なり、将来的なキャリアアップを見据えた内容となっている。特に英語スキルの習得を当然として推すのは、著者のキャリアを考えれば当然といえる。
英語習得に関する議論で、「日本市場にとっては、日本語が参入障壁であることがむしろ優位な要因なのだ」という主張を目にすることがあるが、それはそれとして、ひとりのビジネスパーソンとして考えれば英語を使えるに越したことはない。

全体として各項目自体は納得の行く内容であるが、逆に言えば取り立てて特筆すべきところもないオーソドックスな内容で、ゴールドマン・サックス、マッキンゼー、ハーバードビジネススクールといったきらびやかな名前からレベルの高い内容を期待していると肩透かしを食らう。
Amazonレビューもそういった批判が多いようだ。まあ、近年、上記やあるいはスタンフォード大学といったアメリカのビッグネームで消費者を釣るのはこの手のビジネス書・自己啓発書における様式美といったところではあるのだが。
本当にそのレベルを期待する読者に対してと考えると、少なくとも、本書の本文フォントサイズは大きすぎるだろう。

しかしこの間の『最速の仕事術は〜』でもそうだったが、この手の連中はなぜ「この本はこんなに速く書けましたよ」と自慢したがるのだろう。
同じアウトプットをより速く、という思想が染み付いているからなのだろうが、前提となるアウトプットが大した内容でなければ意味がない。

でかでかとした見やすいことこの上ないフォントに間延びした必要性の薄いエピソード描写をこれでもかと詰め込んで素人に売りつけるのが彼らの言う「生産性」なのだろうか。(そうなのだろう。売れているのだから)

prologue 就職世界ランキング1位と2位で学んだこと(p1)

Chapter1 人との「つながり」に投資する
1 利害関係を越えた「つながり」を信じる(p16)
2 貴重な時間とお金を「つながり」に投資する(p19)
3 学生一人ひとりの名前を覚えるハーバードの教授(p22)
4 相手への興味を真摯に持ち、質問する(p27)
5 相手との時間を印象的に共有する(p30)
6 先輩・上司との飲み会を避けない(p34)
7 どんなに多忙でも、週1回仕事と関係ない人に会う(p38)

Chapter2 自分の内面と外見を磨く
8 エレベーターで他人を先に降ろす余裕を持つ(p48)
9 「すみません」よりも「ありがとう」を伝える(p51)
10 正解のない問題を考えるクセをつける(p54)
11 読んだら3倍考える、マッキンゼー流読書術(p57)
12 新聞は「世間の反応」を考えながら読む(p59)
13 斬新な「思いつき」よりも、骨太な「意見」を重視する(p63)
14 ネットでカンニングせず、自分の頭で答えを出す(p65)
15 紙とペンを手にオフィスを離れよう(p69)
16 「ポイントは3つ」で思考の瞬発力を鍛える(p73)
17 無遅刻・無欠勤を続けられる健康管理をする(p76)
18 身体を動かすことで心にアンチ・エイジングを施す(p79)
19 服装は個性よりも清潔感を大事にする(p79)
20 2週間に一度は靴を手入れする(p86)

Chapter3 時間に支配されずに働く
21 どんな理由があろうと、10分前には現地到着(p92)
22 ハーバード卒業生が教える週末自己投資術(p94)
23 ゴールドマンの上司が始業1時間前にしていること(p99)
24 明日の朝一ダッシュをかけるための儀式(p102)
25 1週間が始まる前にオフからオンに切り替える(p105)
26 ゴールドマン流優先順位設定法(p108)

Chapter4 決定的なコミュニケーションで成果を出す
27 3秒で開ける場所に常にノートを置いておく(p116)
28 仕事を頼まれたら、その場で完成イメージを共有(p119)
29 引き受けた仕事は5分間限定ですぐやる(p122)
30 メールの返信スピード=あなたの評価(p124)
31 上司へのホウレンソウは先手必勝(p128)
32 ホウレンソウは仮説を入れて、念押し型でやる(p131)
33 忙しい上司のスケジュールに割り込む(p134)
34 上司への経過報告は翌朝を狙う(p138)

Chapter5 利益を生む資料と会議で貢献する
35 作った資料は「自分の商品」だと心得る(p144)
36 マッキンゼーがプレゼン資料に1色しか使わない理由(p146)
37 資料は「紙芝居」と「3W」を意識する(p148)
38 「マッキンゼーノート」で伝わる資料を作る(p152)
39 「1チャート、1メッセージ」にこだわらない(p157)
40 attention to detailを徹底する(p161)
41 会議で発言しないのは「欠席」と同じ(p164)
42 会議ではホワイトボードの前に座る(p167)

Chapter6 世界に打って出るキャリアを高める
43 愛国心をパワーの源に変える(p180)
44 英語は「ペラペラ」よりも論理コミュニケーション力(p184)
45 英語上達は目標を明確に短時間で成果を出す(p187)
46 今より一つ上のポジションを意識して仕事する(p190)
47 会社は「退学」せずに「卒業」する(p193)
48 「自分ノート」を肌身離さず目標管理する(p197)

Epilogue 本書の原稿を短期間で執筆できた理由(p202)