書評:『哲学の先生と人生の話をしよう』(國分功一郎)

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哲学の先生と人生の話をしよう 哲学の先生と人生の話をしよう
國分功一郎

朝日新聞出版 2013-11-20
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哲学者・國分功一郎がメルマガ上で行った人生相談を書籍化したのが本書である。媒体と目的に即して非常に読みやすい文体で、俺は一晩で読み終わった。

人生相談というと、相談者の悩みを「先生」が聞き、「先生」が相談者に共感・同情して「先生」自身の人生経験にもとづいてアドバイス……というのが一般的なように思うが、國分はそれとは異なったアプローチを取る。

共感・同情し、自分の人生経験を参照し――というプロセスで行われるのは、「先生」によりフィルタリングされた悩みがいずれかの類型(「先生」の人生経験で形作られた、またはそこから類推されたもの)に流し込まれることである。「ははあ、似たような話を聞いたことがあるぞ。その場合はだいたいこうで、こうすればよい」。言い換えれば、相談内容で語られた情報をもとに、「先生」はストーリーを再構成する。
ここには欠陥がある。
相談内容に込められた情報と先生のフィルタリング、そしてストーリー構成力(人生経験の豊富さ)に回答の正確性が依存するのだ。

國分のアプローチが面白いのは、こういった従来のプロセスと対照的に、相談内容をテキストとして読解する手法を取っていることだ。特にその違いを際立たせているのは、相談の中で「何が語られていないか」に着目するところである。
思想家の著書を読解するとき、書かれていることを字面のまま真に受けることが、かえって理解の妨げになることがある。いかなる著者も「完璧な話者」ではありえない。追うべきは字義通りの意味ではなく、その著書全体、あるいは著者の他の著作から浮き彫りにされる論意である。
学究の徒たちが行っているこの手法を人生相談に適用してみると、非常に面白いものが見えてくる。相談者が詳しく書いていることは何か/書かれているべきはずなのに相談者が語っていないことは何か。ここに着目することで、相談者の意識の向き方、欲望を鮮やかに浮かび上がらせるさまは、読んでいて唸らされるものがある。

もうひとつ唸らされるもの、それは國分の、相談者への「自らと愛するものに向き合い、話し合うことが重要だ」という誠実なメッセージだ。