書評:『誰もが嘘をついている~ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性~』(セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ)

ビッグデータによる分析はこれまでの他の調査や分析と何が異なるのか?
本書の著者セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツによれば、ビッグデータには「4つの独特の力が備わっている」(p69)。

  1. 新種のデータである。
    かつてなら推測するしかなかった領域を映し出す、豊富なテーマをめぐるさまざまなデータが手に入る。
  2. 正直なデータである。
    アンケート等によるサーベイと異なり、検索結果など、本人の(無意識の)意図に影響されにくいデータ(≒ログ)でデータセットが構成されている。
  3. 絞り込み可能である。
    膨大なデータセットがあることで、任意の絞り込み調査について統計的に十分なサンプル数を確保できる。
  4. テストができる。
    手軽に比較対照試験が可能である。

この4点がビッグデータの特徴となる。
ビッグデータ分析の威力がはっきりと映し出されるのが本書第2章のフロイト理論をテストする項で、夢診断は誤りであることがあまりにもあっさりと実証されてしまう(フロイト理論をめぐる論争に時間を費やした論者たちが可哀想になるほどに)。

著者がビッグデータによる分析に最も心惹かれているのは、社会学や心理学といったいわゆる文系学問が実証のためのツールを手に入れたことで、正真正銘の科学となる機会を得たことである(俺も同感だ)。

フロイト理論のような証明不可能な説が「理論」として扱われてしまう状況は、お世辞にも健全ではない。精神分析以上にタチが悪いのが教育の分野におけるそれで、ゲーム脳や親学、EM菌のような偽科学がいつまでも駆逐されない一因は、その反証の難しさにある(提唱者たちがさも当然であるという態度で説を唱える一方で、碌な実証がされていない、というか彼らは何が実証に必要なのか分かっていないので、そもそも議論が成立しない)。

いわゆる文系的な領域における真偽判定の難しさがこうした偽科学の蔓延を許してきたのだが、ビッグデータによる分析はそれを覆す可能性を秘めている。もちろん証拠を突きつければ相手がすぐさま「改心」するほどことは簡単ではないのだが(世の中には地球が丸いことさえ未だに納得しない人がいる)、客観的な真偽判定を可能にする道具の存在は、不毛な議論やステロタイプに基づいた放言による被害をある程度予防し、もっと有意義なことに我々の時間を振り向けることを可能にしてくれる。