書評:『ゼロ秒思考』(赤羽雄二)
頭の中を空っぽにすることが大事、というメソッドはGTDと同じ。
GTDがタスクの分解と処理タイミング設定によって頭を空にすることを目指すのに対し、本書は頭の中でモヤモヤしている「どうして?」と「どうやって?」をとにかくスピーディにメモとして書きまくることでうだうだと堂々巡りすることをやめようという内容である。
毎日自分の考えていることを継続的に活字として出力していくことは確かに有用だろうという点と、本書が提唱するメモ書きのフォーマットはシンプルがゆえに書くこと以外のノイズを排除できる点でよい。
以上。それだけの本。
方法論としてはシンプルだしそれなりには効果がありそうだと思わせるが、この内容であれば10ページも要らない。はっきり言ってほとんどが水増しのような文ばかりでページをめくる手が別の意味で止まらなかった。何も考えずメモ書きを続けた結果としてこうなったのだろうかと邪推してしまう。
構成も練られているとは思えず、ブログの文章と言われれば許せるが、本としてのレベルには達していない。本書ではアウトプットに比重のほとんどが置かれ、出てきたメモ書きを読み直したり推敲したりという過程を重視しない、というより非推奨している。同じテーマのメモ書きでも、以前のものに追記するのではなく新しく書き直せとする。書き直すたびにそのテーマは頭の中で整理されているし、構造についても重要なものから浮かぶのが人間なのだから順に書き下すだけでよい、と。
本書を読んだ限り、どうもそれではよくないのだろうと思わせる。
磨かれない文章とは、かくもみすぼらしいものだろうか。
仕事術の書として『ストレスフリーの整理術』(デビット・アレン)の完成度、緻密さ、有用性にまったく及ばないし、たまたま並行で読んでいたのだが知的生産技術の書として『知的トレーニングの技術』(花村太郎)のような深い教養を背骨とした説得力の前に本書は彼方に霞む。行間から滲み出る知性がまるで異なる。