beyerdynamic『Amiron Home』を購入したのでレビュー。

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発売前の情報解禁からほとんど一目惚れに近い状態となってしまい、ネット上のレビューや購入された方の感想を半年近く追い続けてはどんな音なのだろうと妄想を膨らませてきたのだが、価格の相場が6万円弱まで落ち着いてきたことともあり、先週末に思い切って購入してしまった。
beyerdynamicの製品を買うのも、テスラドライバ機を購入するのもこれが初である。

競合機種として迷ったのはfocalのELEARと、同じくbeyerdynamicのDT1990pro。AKG K702からの買い替えのため、密閉型は最初から候補に入れなかった。AKG K702購入以降、オープン型の開放的な響きや自然な鳴りに惚れ込んでしまったこともある。
そういう意味では当初AKG K812も買い換え検討の対象に入っていたが、価格の点と、AKG決め打ちで買うよりはまだ色々なメーカーを試してみたいと思っていたため自然と外れた。

focalのELEARは価格が相場で倍近く異なるのだが、ネットでは好意的なレビューが多く、「Amiron Homeを飛び越えてELEARまで行ってしまったほうがよい」といった声もあって非常に気になっていた。ただ視聴できる環境がなかなか見つからず(というか置いている実店舗自体いまだに見かけたことがない)、やはり値段のこともあって今回は見送り対象となった。

最後まで迷ったのはbeyerdynamicのDT1990pro。購入当日に両者を聴き比べ、わずかな差でAmiron Homeのほうを選んだ。ただこれは試聴環境がそこまでよいとも思えないものだったため(家電量販店の試聴用設備にそこまで期待するほうが野暮というものだろう)、当日の試聴環境次第では逆の結果となっていたかもしれない。どちらかと言えば事前に目にしていた公式広報や各種レビュー等に基づき、リスニング向きという評価を頼って判断した部分が大きく、一番の後押しとなったのはやはりSandal Audioさんのこちらのレビューだった。実際に購入した感想としては感謝しかなく、SAさんはじめレビュワー各位への返礼という意味で、拙かろうが恥を忍んで己も筆を取らねばと書いたのが本記事である。

自宅のリスニング環境はiMac(iTunes&Audirvana)→HD-DAC1→ヘッドホン。

音質の総評

現時点(2017.07.09)で鳴らした時間はまだ10時間程度。箱開けして聴き始めた当初は低音が前に出過ぎていて全体的にボワボワした音に感じたが、6〜7時間鳴らした頃から高・中音域が伸び始め、輪郭がくっきりと定まってかなり好みのバランスとなってきた。個体差もあるだろうが、しばらくは音が変わり続けそうに思える。

現段階では、まず目立つのが低音の量。K702と比較すると一目瞭然の差で、K702では必要なだけの締まりをもたらす役目だった低音が、Amiron Homeではややタイトめだが量感があり、ベースがそのボリュームに埋もれがちになるものの、低音のまとまりが音の全体を下支えしているような印象を受ける。

中高音では音の輪郭が極めて明確なのに、それでいて解像度を上げすぎて刺さりがあったりザラついたり、といったことがない。分かりやすいのはシンバルの音で、スティックの位置と形が明確に聴き取れるような感覚がある。

女性ボーカルの声の滑らかさと微妙なニュアンスの表現は特筆すべきで、良音源を聴くとこれまで見えていなかった微細な表情が露わになる驚きを味わえる。左右のドライバを意識させられることがまったくなく、空間がスムースに形成された上で音像がピタリと詳らかに合うので、特に抑制的なパートや囁き声で顕著なのだが、キラキラとした色艶というより、ある種のエロティシズムに近いものを感じる。サ行の音が刺さらないよう上手く整えられていることも一因だろう。

こうした特徴から録音のよいウィスパーボイス系のヴォーカルと相性が非常に良い。アニソンや女性ボーカル好きで、とりわけしっとりと聴かせるような曲調がお好みの諸氏には素晴らしい選択肢となるだろう。俺がそうだ。

同様の理由でジャズにも合う。ディテールの表現力があるため録音のよさを存分に味わえるだろう。

一方でEDM系などの電子音を聴く際には、曲によりソリッドさがやや欠けるような印象を受ける。原因としては低音のボリュームの多さがひとつで、もうひとつは、生音のディテールをくっきりと出すだけに電子音を相対的に鈍く感じてしまうのではないか、というところである。

本機を通して聴く手嶌葵、新居昭乃、riya(eufonius)、石川智晶は本当に素晴らしい。Kalafinaも十分いける。Annnabelも良い。Perfumeは曲を選ぶ。Aimerは意外にもK702の音からグレードアップした感じを受けなかった。LISAになるともっとその良さを発揮できるものが他にありそうな感じである。

HD-DAC1との組み合わせ

HD-DAC1との組み合わせだとゲインはLowが最適だった。
これは事前の予想に反して意外だったところで、Amiron Homeはリスニング寄りという事前情報からてっきり音の力強さや明朗さが増すHighゲインが最適だろうと思っていたのだが、蓋を開けてみるとhighでは確かに煌びやかさが増すものの、曲の副旋律などが持つ繊細なニュアンスはその背後に隠れてしまう。

ゲインをlowに変えるとそれがちょうどよいバランスに落ち着き、各音がコレクティブに統制されたようなイメージとなった。抑制的ではあるのだが、音像がくっきりしているので不足感がない。
K702の場合、音量をある程度上げることで実力が見えてくるところがあるのだが、Amiron Homeでは輪郭が明確なために不必要に音量を上げる必要がない。この辺りも本機が長時間のリスニングを志向した結果かもしれない。

まとめ

K702からの乗り換えという意味では、高音のきらびやかさがわずかに減った代わりに低音がぐっと量を増した点をどう捉えるかではあるが、ほぼ上位互換と考えてよい。
オーディオ初〜中級者から見ればそれなりの価格ではあるが、それに見合う価値がある。結論としては買って本当によかったです(小並感